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体感中国語56―『雪国』冒頭文の日英中文の比較

金谷武洋さんの『英語にも主語はなかった』(講談社選書2004年)という本の中に、かつてNHK教育テレビの「シリーズ日本語」という番組で、池上嘉彦という方が川端康成の小説『雪国』の冒頭文についておもしろい実験をしていたということが紹介されていました。

その実験というのは、『雪国』のE.サイデンステッカーの英訳本から、その冒頭文を抜き出し、英語の話者に示して、そのイメージを絵に描いてもらうということでした。

『雪国』の原文とその英訳は以下のとおりです。

(原 文) 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

(英語訳) The train came out of the long tunnel into the snow country.


その結果は、汽車の中からの情景を描いたものは皆無で、全員が上方から見下ろしたアングルでトンネルを描いていたとのことです。この文の話者の視点は明らかに「汽車の外」からで、トンネルからは列車が頭を出しており、列車内に主人公らしい人物を配したり、トンネルの外には山があって、何人かは雪を降らせたりしていたそうです。


「原作では汽車の中にあった視点が、英訳では汽車の外、それも上の方へと移動している。本書で『神の視点』と呼ぶのは、この視点のことである。」
 (上掲書29ページ)

英語のこのような視点を金谷さんは「神の視点」と呼び、それに対する日本語の視点を「虫の視点」と呼んでいます。

ならば、中国語はさしずめ「小鳥の視点」ではないのか、と私は想像しているのです。 (以下の記事参照ください。)

  http://lailai-hanyu.at.webry.info/200712/article_2.html(中国語は「草花型」で、「小鳥の視点」)
  http://lailai-hanyu.at.webry.info/200712/article_1.html(「中国語も主語はいらないか」)




ところで、『雪国』の冒頭、中国語ではどのように訳しているのでしょうか。叶渭渠という人が訳した『雪国』(人民文学社2002年)では以下のようになっています。 (簡体字は繁体字に直しました。)

(中国語訳) 穿過県界長長的隧道,便是雪國。




以上の日英中のそれぞれの文構造を、以下に私なりに図解してみました。


(日本語) 国境の  長い  トンネルを   抜けると   雪国であった。
         (修飾語)    (修飾語)   (被修飾語)
         (連     用     修     飾     語)   (述    語
         (連        用        修         飾         語)     (述       語



(英 語) The train  came out of the long tunnel into the snow country. 
       (主   語)  (述語・動詞)  (副     詞     句)    (副       詞      句)



(中国語) 穿過  県界  長長的  隧道,  便是  雪國。
             (修飾語)    (修飾語)    (被修飾語)
         (述語)    (目           的           語)       (副 詞)   (述語



さて、中国語は日本語に近いのでしょうか。それとも、英語でしょうか。


                                 (なんにもならないのにますます語学オタクにはりこむネズミ)


≪追記≫12.30

中国語文の最後の「便是  雪國。」は、昨日は現行の一般的な中国語文法書に従って、「便(副詞) 是(動詞)  雪國(目的語)」としていましたが、以下の理由で、「便是(副詞)  雪國(名詞)」に改めました。

<理由>
中国語動詞「是」が英語の「be動詞」に該当するとしたら、「be動詞」の後ろの名詞は目的語ではなく、補語のはずです。しかし、現行の中国語文法ではほとんどが目的語とするか、ここのところの説明をしっかりしているのは皆無のようです。

また、手元の中国語辞書には「便」は副詞と出ていますが、「便是」は一語としての説明はありませんでした。しかし、「便=就」ですから、「就是=便是」と解して、「範囲を限定し、他を排除する」副詞と訂正することにしました。
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by damao36 | 2008-07-02 10:00 | 中国語文法 | Comments(0)
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