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213 賓語――日語・英語と比べて学ぶ

 中国語の述語動詞後の名詞または名詞性連語は賓語という文成分と考えて間違いありません。この賓語は日本語の連用修飾語の中の目的格(ヲ格・ニ格),英語の目的語にほぼ同じです。ですから,わが国中国語文法書の多くは英文法で用いる目的語という用語を用いています。しかし,私は中国で使われている賓語(宾语bīnyǔ)という用語を用いることにします。
  ※ 賓語の“宾”は“客人(跟“主”相对)”の意。“客语”(客語)ともいう。一番奥座敷にいるからか。

 なぜ目的語と言う用語は使わずに,私たちにはなじみのうすい賓語という用語を用いるのか,それは中国語の賓語は英語の目的語とは大きくは一致するが,イコールではないからです。

 例えば「私は日本人です」という文です。
 1 (日本語)   私は   日本人です。      <名詞+助詞+名詞+助動詞>   ……名詞述語文
            (主語)   (述語)                                      (SN文)
   (英 語)   I   am   a Japanese.    <代名詞+動詞+冠詞+名詞>   ……動詞述語文
            S   V     C                                     (SVC文)
   (中国語)  我   是   日本人。 Wǒ shì Rìběnrén. <代詞+動詞+名詞> ……動詞述語文
           (主語)(述語)  (賓語)                                   (SVO文)

 日本語文には動詞は用いられていません。述部のコアは名詞ですから,これは名詞述語文です。

 英語は不完全自動詞be動詞が用いられています。この語は「AはBである」という意味で,Aの属性(固有の性質)や状態がBであると説明する語です。動作などを示す一般動詞とは大きく異なります。「主語の“I”(A)は一体何者なのか。それは“a Japanese”(B)なのだ」,この文はそう説明しています。つまり,このbe動詞は“I=a Japanese”という等式関係を示す語で,“a Japanese”は主語の属性を補足説明している語です。補足説明ですから,この“a Japanese”は補語の成分と称するのです。
  ※ “I am a Japanese”は英語の第2文型のSVC文。この文型のCには名詞か形容詞が来る。上記の
    例文は名詞だが,形容詞が来てもS=Cの等式は成り立つ。形容詞の場合は主語の性質・状態を補足
    説明する。この文型のVは不完全自動詞のbe動詞がほとんどである。
  ※ 英語にはもう一つ補語を持つ文型がある。第5文型のSVOC文である。この文型の場合はS=Cでは
    なく,O=Cの等式になる。後で出てくる例文5“They elected him chairman.”がこの文型。この文
    型のVは不完全他動詞になる。第2文型が主語説明文なら,第5文型は目的語説明文である。


 さて,中国語はどうでしょうか。英語と比較すると,冠詞はありませんが,品詞の配列は<名詞―動詞―名詞>と英語・中語ともに同じです。しかし,英語は第2文型SVC文ですが,中国語は第3文型SVO文なのです。“是”という動詞のあとの名詞は補語ではなく,賓語(ほぼ英語の目的語)なのですから。

 なぜ補語とはせずに賓語としているのか。その大きな理由は中国語には動詞をあとから補足説明する中国語独特の語法があり,その語法を中国語では補語と称しているからです。
  ※ <動作動詞+名詞>なら,その名詞は動詞の動作・作用の及ぶ対象ターゲットであるから,目的語と
    称してよい。しかし,中国語の“是”は英語のbe動詞と同じく動作動詞ではなく,物事の関係を説明・判
    断する関係説明の動詞である。この中国語文もまた“我=日本人という等式は成立している。
  ※ しかし,この“是”には「これは」という指示語の意味があり,「AはBである」というbe動詞とは少し異な
    り,「A,それはBである」というニュアンスがある。単用することもあり,会話応答の中で是”と答えると,
    「そのとおりだ」(“对duì”に同じ)という意味になる。be動詞のような不完全自動詞とは言えない。
  ※ “是”は“叫・姓・像・等于・・・”などと共に関係動詞と言われ,“是”は同一関係を示す動詞である。

 “是”には上記のとおりbe動詞とは異なるところがありますが,述語の前にある名詞の補足説明というはたらきはbe動詞と同じです。なのにどうして補語とは言わないのか,その理由は述語をあとから補足説明する語法の方が中国語としては重要で,そちらを優先させて補語と命名しているたからです(私の推論)。

 そのため中国語の賓語は動詞のターゲット語と,それとは異質である主語・目的語の説明語とがあわさって“目的語”とされているのです。<英語の目的語=中国語の目的語>ではない,そういうことを自覚するために,あえて賓語という本場で用いられている用語を使うことにしました。
  ※ 無用な混乱を避けるために,中国語の“目的語”は“補充語”としたらという説もあったようだ。


 英語の中には,私たちから見たら一見目的語と思うのに,そうでない以下のような文例があります。
  2 I go to school.  (学校に行きます)         ※この「に」は動作の帰着点
  3 He live in Shanghai. (彼は上海に住んでいます)  ※この「に」は場所
  
 日本語文の「学校に」「上海に」の部分はいずれも連用修飾語の目的格で,日本語文はSV文です。ところで,英語文は日語・中語の感覚から私はSVO文だろうと考えたのでしたが,違っていました。この文の“go”“live”は自動詞なのです。“I=to school”“He=in Shanghai”の等式も成立しませんから,SVC文でもありません。“to school” は帰着点,“in Shanghai”は場所を示す副詞句で,付け足しのその他の要素です。この英語文もまたSV文でした。

上記の例文,中国語ではどうでしょうか。
  2’ 我去学校。Wǒ qù xuéxiào.
  3’ 他住在上海。Tā zhùzài Shànghǎi.

 中国語でも自動詞・他動詞の区別をすることはありますが,あまり意識されません。名詞を付け加えないと文が完結しないと思われるなら,そこで用いる動詞は他動詞なのです。ですから,上記の例文は第3文型のSVO文です。“学校”“上海”はいずれもりっぱな賓語なのです。
  ※ 3’の述語“住在”は動補連語。前の動詞“住”を後ろの補語動詞“在”が補足説明し,「住んで・そこにい
    る」という意味を形成する。こういう語法が中国語の補語である。補語を基本構造の骨格となす文成分
    と考えると,この文はSVCO文になる。しかし,補語は述部の一部とみなすと,この文はSVO文である。
  ※ 3’のように“住在上海”とあるときの“在上海”を<介詞“在”+場所詞“上海”>ととらえて,「上海に」と
    いう意味の介詞連語とする説もある。もしも介詞連語なら,修飾成分の副詞句だから,この文はSV文
    になる。しかし,“在”もそうであるが,中国語の介詞は動詞転用組が多い。そういう語の場合が述語動
    詞のあとに来た場合は介詞とはせずに,動賓連語と見ることにする。つまり,<“住”+介詞“在”+場
    所詞“上海”>ではなく,<本動詞“住”+補語動詞“在”+場所詞“上海”>とする。
  ※ 動詞転用組の介詞連語構造が述語のあとに来たときは,その介詞は動詞とするとすれば,ほとんど
    の介詞連語は述語の前の状語としてのはたらきのみとなり,すっきりする。しかし,下記例のように動
    詞性のない介詞もある。この“于”“自”の場合は,介詞連語が述語の後に来て,後ろから述語を説明す
    る補語句と説明せざるを得ない。
       我在一九九○年生于澳门。Wǒ zài yī jiǔ jiǔ líng nián shēngyú Àomén.
       I was born in Makao on 1990. (私はマカオで1990年に生まれた)
       我们当中有些人来自北京。 Wǒmen dāngzhōng yǒuxie rén láizì Běijīng.
     Some of us are from Beijing. (私たちの中には北京から来た人もいます)
  ※ “生于澳门”の“于”は古語として用いられていた語であるが,その使用例は今も以外に多い。“生
    于”以外に<動詞+“于”>としては“出于”“处于”“对于”“关于”“属于”“在于”“至于”など,<形容詞
    +“于”>としては“大于”“难于”“善于”などがある。

 さて,上記2・3の中国語の賓語に当たる部分の日本語訳は「学校に」「上海に」と,いずれも格助詞「に」が付着していました。この格助詞「に」を正確に説明することはむずかしく,99.9%の日本語ネイティブもきっとお手上げです。1も2も場所に関係のある「に」ということはわかりますが。


 ところで,以下の文例の「に」はどうなのでしょうか。
  4 She wrote me a long letter.  (彼女は私に長い手紙をくれました)
  5 They elected him chairman.  (彼らは彼を議長に選びました)
 
 4は第4文型の授与型SVOO文です。「~に」,「~を」の部分はいずれも英語は目的語です。“me”は間接目的語で,“a long letter”は直接目的語です。5はどうかというと,これは第5文型のSVOC文です。“him”は目的語ですが,“chairman”は目的語ではなく,目的語の補語です。なぜなら,“him =chairman”,つまりO=Cの等式が成り立つからです。

 日本語はというと,4も5もSV文です。4は「誰かが 誰かに 何かを Vします」という文例で,5は「誰かが 誰かを 何かに Vします」という文例です。テニヲハ貼付語である日本語は「誰かに 何かを」と「誰かを 何かに」は語順が入れ替わっただけで,いずれも文法成分は連用修飾語です。
  ※ 日本語文は4・5の「に」は動作・作用が行われるその対象,4の「を」も動作の対象。しかし,5の「を」
    は動作・作用が行われたその結果を表すという違いはある。


 では,中国語はどうなのでしょうか。
  4’ 她给我一封很长的信。  Tā gěi wǒ yì fēng hěn cháng de xìn.
  5’ 他们推选他会议主持人。 Tāmen tuīxuǎn tā huìyì zhǔchírén.

 4’・ 5’の述語動詞“给”“推选”のあとにつづく2つの名詞はいずれも賓語(目的語)です。動詞とそのターゲット語との関係を→印で示すと,4’は“给―→我”“给―→一封很长的信”ですが,5’は“推选―→他”はいいのですが,“他”と“会议主持人”の関係は→印ではなく,“他=会议主持人”です。“会议主持人”は同じ賓語“他”の補足説明です。でも,中国語は両文とも同じ二重賓語文SVOO文です。
  ※ 5’の述語“推选”は「推して選ぶ」という動補連語。

 要するに中国語の賓語は英語の目的語よりも幅が広いということです。動詞の動作の対象となる語を指すとともに,主語や賓語の補足説明をする語句をも賓語には含まれるということです。



 以上の説明で,中国語の賓語というのは<主語+述語>のあとにつづく名詞または名詞性語句を指すということがお分かりになったと思います。ならば,述語のあとの名詞は一律に賓語と見ていいのかというと,そう断言するのにためらう問題が一つあります。それは英語でも問題になる“there is”構文・中国語版です。
  6 桌子上有一本书。Zhuōzi shàng yǒu yì běn shū.
    There is a book on the table.(テーブルの上に本がある)
      ※ この文型は <場所詞・時間詞+動詞+(不特定の)人/物>となる。この文型の文を中国語では
        存在文・出現文・消失文に分け,この3文をまとめて存現文という。

 この“there is”構文,英文法の説明も歯切れが悪く,文頭の“there”は副詞で「形式上の主語」, be動詞の後ろの名詞が「実質的な主語」である,あるいは“there”を代名詞としたら主語でよく,そうすると第2文型SVC文になるなどと説明されています。前者の説明が一般的なので,それに従うことにしますが,英語の述語動詞はbe動詞ですから,文型はやっぱりSVC文なのでしょう。

 6の中国語文の動詞は“有”です。“有”には所有と存在の意味があります。所有の“有”はそのあとにつづく名詞は賓語として問題ありません。しかし,この文例のように存在の“有”の場合は,日本語文でもわかるように,後ろの名詞“一本书”は「本が」と主語に訳されています。この存在文(存現文の一種)構造は<場所詞/時間詞+述語+(不特定の)人/物(名詞)>で,文頭の場所詞/時間詞が「形式上の主語」で,後ろの名詞が「実質的な主語」になります。英語の“there is”構文は第2文型SVC文でしたが,中国語の場合は英語のCもOに含まれるので,この文型は第3文型SVO文で,“一本书”は「実質的な主語」ではありますが,形式上は賓語になります。

  7 上午下了一阵大雨。 Shàngwǔ xià le yí zhèn dà yǔ.
    It rained heavily in the morning.(午前中大雨が降った)         
  8 多一个人就多一分力量。Duō yí gè rén jiù duō yí fèn lìliang.
  If we get one more person, we will become stronger.(数は力だ)
   ※ この文種は人・物・事の存在・出現・消失にかかわる。自然現象も存在・出現・消失にかかわる
        ので,この文種には7のような自然現象にかかわる表現が多い。8の“多”は形容詞でなく,動詞。

 この文種は最初にある空間(舞台)が用意されています。そこにこれまでは気づかなかった存在にはじめて気づく,6はそういう文例です。7は話者が目にしている空間に“下雨”という自然現象が出現したという文例です。8は抽象的な内容で,用意されている空間はなにか,省略されていますが,ある集団と想定し,そうした集団もまた多くのものを許容できるのですから,空間だと考えられます。消失文例は省略していますが,おなじことです。


 以上は英語5文型を基準に中国語の賓語を考えてきました。英語の補語文型である第2と第5文型も中国語では賓語をもつ文型になりましたが,それ以外にもあと5つほど賓語を持つ文型が中国語にはあるようです。以下に賓語をとる他の文型例を挙げておきます。
  9 我帮你拿行李吧。Lǎè.
    Can I take your luggage?. (お荷物お持ちしましょう)
 10 我想最好还是拒绝。Lǎ.
    I think it best to refuse. (やっぱり拒否するしかないと思う)
 11 不要躺在过去的成绩上睡大觉。Bú yào tangzài guòqù de chéngjì shang shuì dà jiào.
    Don’t rest content with past achievements.(過去の成績にいい気になって怠けてはダメです)
 12 请你把他叫来。Lǎè.
    Please call him over. (お金は銀行に入れよう)
      ※ 9の“你”は前の動詞“帮”の賓語で,後の動詞“拿”の主語。<S+V+O/S+V>形式のい
        わゆる兼語文である。
      ※ 10は心中文。心理活動動詞である“想”のあとの文“最好还是拒绝”は主語の心中におけ
        る“つぶやき”。この“つぶやき”全体が“想”の賓語である。
      ※ <S+V+O+V+O>形式のいわゆる連動文。英語では一方が不定詞構文になることが多い。
      ※ 12は“你把他叫来”という<S+V+O/S+V+O>文型の文頭に“请”という「お願いします」
         (英語の“please”)という動詞が加わった動詞が3つも連なる3重連動文。全体の主語は省略
         され ているが“我”。“你”はもともと主語であったが、“请”がきたので,“请”の賓語と以下
         の文“把 他叫来”の主語を兼ねる。つまり,こういうO/Sをもつ文型を兼語文という。
      ※ ところで,“你”を主語とした“你把他叫来”という文,中国語の基本構造だと“你叫他来”がふつ
        う。この文の賓語である“他”を特に指定してそれにある動作を加えることをはっきり表現するた
        めに介詞の“把”で強制的に動詞“叫”の前に移動させた文型。この構文を処置文または“把”構
        文という。“把他”は意味的には賓語であるが,文形式上は状語えある。
      ※ 中国語の基本構造順の“你叫他来”をさらに考えてみると、この文型は<“叫”+“他”+“来”>
        で,直訳すると「彼を呼んで,その結果彼が来るようにする」という使役文でもある。中国語の使
        役文はやはり兼語文の一種で,この文の“他”は“O/S”マークになる。
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by damao36 | 2012-06-17 16:05 | 中国語文法 | Comments(0)
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