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160―賓語は目的語とどう違うのか

 日本語の基本語順はSV型で、英語と中国語はSVO型です。

 このSVO型のS(主語)「だれが/何が」は、日本語の場合は必ずしもそうではないことがありますが、中国語の場合は必ず聞き手がすでに知っている、既知のコトガラ、旧知の情報のはずです。その後につづく述語と賓語、その内容が聞き手に伝えたい未知の情報、新しい事柄になるはずです。英語もきっとそうではないでしょうか。

 ところで、同じSVO型である英語の目的語(object)と中国語の賓語はまったく同じでしょうか。どこか違うところがあるのでしょうか。今回はその違いを検討してみました。


 
 その違いの例として「私は日本人です」という文をまずは挙げることができます。

   (日本語) 私は 日本人です。
         (主語) (述 語)
   (英 語) I am a Japanese.
          S V   C
   (中国語) 我 是 日本人。 Wǒ shì Rìběnrén。
       (主語)(述語)(賓 語)

 日本語文は「名詞+助詞+名詞+助動詞」で、名詞述語文です。英語は「名詞+be動詞+冠詞+名詞」で、不完全動詞のbe動詞の後の「a Japanese」は「I=a Japanese」という主語を補う補語の関係です。したがって、この文は第2文型SVCの文です。

 中国語は「名詞+動詞“”+名詞」で、一見上記の英語のSVC文に同じだと思われますが、ふつうこの最後の名詞「日本人」は賓語だとみられています。したがって、この文は英語の第3文型SVO文になります。

 この見方については中国語文法学界でも、文中における各成分の意味を重視して補語とすべきだと主張する「意味派」と、動詞の後にくる名詞や名詞成分は一律に賓語(目的語)とすべきだという「形式派」とに分かれて論争があっつたそうですが、今は述語の後の名詞はすべて賓語とする「形式派」が主流になっています。

 その理由としてまず考えられることは、「」という動詞は中国語のbe動詞ともいわれていますが、英語の不完全動詞といわれているbe動詞ほどには不完全ではなく、例えば「はい」とか「その通りです」という意味での単独用法もあるということです。

 もう一つの理由は中国語には述語動詞や形容詞の後にさらにその叙述を補う成分が多くあり、それを補語と名づけているからです。「+名詞」の名詞を補語と名づけたら「動詞+補語」としているこの補語の名称を変えなくてはならなくなるからです。



 次に英語の別の補語の例を挙げて、考えてみます。

    I go to school. (学校に行きます。)
    He live in Shanghai. (彼は上海に住んでいます。)

 さて、この文の文型はなんでしょうか。答えはいずれも第1文型のSV文です。SVM文と書かれている辞書もあり、Mに相当する「to school」「in Shanghai」は帰着点と場所を示す副詞句なのだそうです。

 
 中国語はどうでしょうか。

    我 去 学校。
    他 住 在 上海。

 英語の「go」は自動詞ですが、中国語の「」は他動詞です。したがって、「学校」はりっぱな賓語です。この文はSVO文です。

 次の「住在」はちょっと厄介で二つ説があります。

 一説は「住在」をVVの動詞連語と考え、ここは「住んで・そこにいる」という意味を構成し、後ろの「」は前の動詞を補う補語であるという補語説です。「上海」は動詞の後ろの名詞だから、当然賓語です。するとこの文はSVCO文になります

 もう一つは、「“”+場所詞」の介詞連語説です。そう理解すると、介詞連語全体で賓語となるのか、介詞連語の「在上海」が述語「」の意味を補う補語になるのか、私の迷うところです。でもいまは前説が有力なので、SVCO文だと考えることにします。中国語のVCは広い意味では述部ですから、つづめるとここはやはりSVO文です。



 ところで、日本語で「誰かが何かに何かをVします」という文例と「誰かがなにかを何かにVします」という文例があるとします。日本語では「何かに何かを」と「何かを何かに」は語順が多少入れ替わっただけで、いずれも文法成分は連用修飾語で、SV文型です。

 ところが英語ではどうなるのでしょうか。

   A She wrote me a long letter. (彼女は私に長い手紙をくれました。)
   B They elected him chairman.  (彼らは彼を議長に選びました。)

 Aは第4文型の「S+V+O+O」で、「~に」、「~を」の部分はいずれも目的語です。Bはどうかというと、これは第5文型の「S+V+O+C」になり、「~を」は目的語ですが、「~に」の部分は目的語ではなく、目的語の補語、O=Cの関係になります。

 それなら中国語はどうでしょうか。

   A 她给我一封很长的信。
   B 他们推选他会议主持人。

 Aは述語動詞「」の間接目的語と直接目的語です。

 Bの述語「推选」の二つの動詞は「推して選ぶ」という並列連語で、やはりこれも間接目的語と直接目的語のSVOO文です。

 英語は「彼を選んだ」、「選んだというけれども一体全体何に選んだかというと、それはchairmanにだ」という発想です。つまり、目的語の「him」の足りない状況をあとから補っているので、この「chairman」は補語だと考えるのです。

 それに対して中国語はどうかというと、「私たちは推薦して選んだ」、だれをかというと「を」、何にかというと「会议主持人に」、と足りない情報をつぎつぎにただ並べていく、そういう感じです。

 

 最後にもう1例挙げておきます。

 おなじみの「there is」構文です。中国語では存現文です。

   A  桌子上有一本书。  Zhuōzi shàng yǒu yì běn shū。
      There is a book on the table. (テーブルの上に本があります。)
  
   B  上午下了一阵大雨。  Shàngwǔ xià le yí zhèn dà yǔ。
      It rained heavily in the morning. (午前中に大雨が降った。)
  
 英語のA文の主語はふつう「a book」ととっています。Bの主語は「It」という形式主語です。

 中国語はどうなのでしょうか。あまたの辞書や文法書の中でどうもこの点についてはっきりふれているものを私は見かけないのです。日本語から主語を考えると、Aの主語は「一本书」、Bの主語は「一阵大雨」ということになるのですが、一体それでいいのでしょうか。

 相原茂氏らの『Why?』の目的語の説明のところに「(文中の名詞は)通常、意味上のシテ、ウケテにかかわらず、動詞の前にあれば主語、後ろにあれば目的語です。」(p157)と書かれているので、「桌子上」という場所詞、「上午」という時間詞がここでは主語と取り、「一本书」と「一阵大雨」は賓語とするのが中国語の文法なのではないでしょうか。

 考えてみると、「桌子上」と「上午」は話し手も聞き手も共有する事柄で、「一本书」と「一阵大雨」が伝えたい新しい情報ですよね。


 以上、英語では述語動詞の後の名詞が必ずしも目的語とは限らず、補語となる例が多いのですが、中国語の場合は全部賓語とみなしてしまうということです。したがって、この賓語は目的語という語感よりも幅が広く、補足語といった方がいいいのかなあと思ったりしています。
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by damao36 | 2009-11-02 22:53 | 中国語 | Comments(0)
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