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209ー代詞(1)―人称代名詞

 代名詞というのは名詞の繰り返しを避けるために名詞の代わりに用いる代替のはたらきをしたり,人や事物を表す名詞を指し示す指示のはたらきをしたりする語のことです。

 ところで中国語ではそのような語の品詞を代名詞とは言わず,代詞と呼んでいます。その理由は,中国語の代詞は英語や日本語で言う名詞代替のはたらきをする語も含んでいますが,それ以外のはたらきをする語(日本語の連体詞や副詞,英語の形容詞や副詞)をも含んでいるからです。
  ※ 英語のpronoun(代名詞)は以下のように下位分類されている。
     人称代名詞(I , my, me, we, our, us, you, yourなど。) 
     不定代名詞(one,they,some,any,allなど。)
     指示代名詞(this, that, these, thoseなど。)  
     疑問代名詞(who ,which, what, howなど。)
     関係代名詞(who, which, thatなど。)
     再帰代名詞(myself, yourself, himself, herselfなど。)
  ※ 疑問代名詞にはwho ,which, what, howなどがあるが,when.where,why ,howは
   疑問の副詞である。この疑問副詞と疑問代名詞などをくるめて言うときは疑問詞という。
  ※ 日本語の代名詞を『広辞苑』は以下のように説明している。
      品詞の一。ある場面または文脈に現れた人・事物・方向などを、そのものの名称・名詞
     を使わず、話者から見た相手・第三者・遠近などの関係によって指し分けるのに用いる
     語。人代名詞・指示代名詞など。国文法では名詞に含ませる説もある。
  ※ 日本語の代名詞が英語や中国語と最も違う点は,話し相手によって「私・僕・おれ」などと
   呼称を変えなくてはならないところである。そのため人称代名詞の数が英語や中国語の10倍
   前後になる。

 それでは中国語の代詞の説明を《现代汉语词典》と中国の言語学者王力氏の《中国語法理論》新版(1954年出版)での説明を紹介し,その後に≪中国語代詞の分類≫を示しておきます。
  【代词】dàicí 代替名词、动词、形容词、数量词、副词的词,包括:a)人称代词,如‘我、你、
      他、我们、咱们、自己、人家’;b)疑问代词,如‘谁、什么、哪儿、多会儿、怎么、
      怎样、几、多少、多么’;c)指示代词,如‘这、这里、这么、这样、这么些、那、
      那里、那么、那样、那么些’。( 《现代汉语词典》)
    (訳)名詞・動詞・形容詞・数量詞・副詞となる語の代わりをする。a)人称代詞,……,
      b)疑問代詞,……,c)指示代詞,……,を含む。)

     代詞的定義及其範圍――英文的Pronouns譯成中文、該是「代名詞」。現在我們用「代
   詞」這個名稱、不用「代名詞」、因為我們想把它的範圍推廣些。普通對於「代 名詞」的定
   義:「凡詞用以替代名詞者叫做代名詞」;而我們對於「代詞」的定義是: 「凡詞能替代實詞者
   叫代詞」。(『中国語法理論。』中華書局出版 1955年版下冊1頁)
  (訳) 代詞の定義とその範圍――英文のpronounsを中国語に訳すなら「代名詞」である。
    しかし,いま私たちは「代詞」という名称を用い,「代名詞」とはいわない。なぜかとい
    うと,私たちはその範囲をすこしばかり広げて用いているからである。「代名詞」の定義
    といえば「名詞にとって代わるもの」のことであるが,私たちが用いる「代詞」を定義す
    るなら,それは「実詞にとって代われるもの」といういいである。
  ※ 「凡詞能替代實詞者叫代詞」の「実詞」とはいわゆる品詞分類の実詞・虚詞の「実詞」で
   はなく,「実在する事物を表す語句」のことではないかと理解している。
  ※ 王力氏はロンドン留学中にデンマークの言語学者オットー・イェスペルセンに傾倒し,上
   記の書を著す。このイェスペルセンの著書『文法の原理』(安藤貞雄訳 上。中・下)は
   2006年岩波文庫版として出版されている。
  ※ 代名詞はpronounとふつうsは付かない。王力氏の書にはsが付けている。

≪中国語の代詞の分類≫
1 人称代詞 (‘我、你、他、我们、你们、他们、谁’など。「人称代名詞」と呼んでも可。)
2 指示代詞 
 a 指示代名詞(‘这、那、哪、这边、那边、哪边’など。) 
 b 指示形容詞(‘这些、那些、哪些’など。)
 c 指示副詞 (‘这么、那么、哪么‘など。)
3 疑問代詞
 a 疑問代名詞 (‘谁、什么、哪儿、多会儿’など。) 
 b 疑問数量詞(‘几、多少’ など。)
 c 疑問形容詞(‘哪、哪个、怎样、怎么样、几、多少’など。)
 d 疑問副詞 (‘怎么、怎样、怎么样、为什么、多・多么’など。)
  ※ 1と2のaは人称代名詞・指示代名詞と呼んでよい。しかし,あとは決して「名詞に代わる
   もの」ではないので,不可。それなら“代”形容詞,“代”副詞にすべきかというと,それ
   らの代詞は「形容詞や副詞詞に代わるもの」ではないので,“代”は不適。
  ※ 呂淑湘の《现代汉语八百词》(日本語訳『中国語文法用例辞典』)の品詞分類では上記の
   1人称代詞・2a 指示代詞・3a 疑問名詞を代詞とし,あとは指示詞としている。



 それでは中国語の人称代詞とはどのようなものがあるのか,表にまとめてみました。
   (単    数)     (複     数)
 第1人称  我wǒ   咱zán      我们wǒmen  咱zán 咱们zánmen  
       I  my  me  mine we  oue  us  ours
 第2人称  你nǐ   您nín(敬称)    你们nǐmen
       you your you yours  you your you yours
 第3人称  他tā  她tā  它tā     他们tāmen 她们tāmen 它们tāmen
       he his him his       she her her hers  they their them theirs
 
 不定称(疑問人称代詞)   谁 shéi(shuí) who whose whom
  ※ ‘咱’は単数の場合と複数の場合がある。 ‘咱’・‘咱们’は北方方言。複数の場合は
   話し手側と聞き手側を含む。それに対して‘我们’は話し手側と聞き手側を含む場合と話し
   手側だけの場合がある。
  ※ ‘谁’は正確に言うと人称代名詞とは言えない。なぜなら,他の人称代詞のように「名詞
   の代わりに用いる語」ではなく,‘谁’に該当する名詞を求めている語であるから。でも,
   人称代詞なら問題はない。
  ※ 上記以外に以下の語も人称代詞である。
    自己zìjǐ(自分。自身。日本語の「自分」同様,2・3人称と共に使って他人をも指すこと
        ができる。oneself)
     例 学习主要靠自己努力。Xuéxí zhǔyào kào zìjǐ nǔlì.
       Success in study mainly depends on yourself efforts.
       (学ぶことで大切なことは自分が努力するかどうかである。)
    人家rénjia (人様。他人。あの人。自分を指すこともある。‘家’は軽声。1声に読む
          と人の家。other; another.)
     例 人家能做到的, 我们也能做到。Rénjia néng zuòdào de, wǒmen yě néng zuòdào.
       If other people can do it , so can we.
       (人様ができることは私たちだってできる。)
       人家等你半天了。Rènjia děng nǐ bàntiān le.
       I’ve been waiting for you for quit a while.
       (あんたを長いこと待つたんだよ。)
    大家dàjiā (みんな。居合わせた人々を指して言う。自分を含めても含めなくてもよい。
         呼び掛けには)使わない。all; everybody.)
     例 大家的事大家管。Dàjiā de shì dàjiā guǎn.
        Everybody’s business should be everybody’s responsibility.
        (みんなのことは みんなで決めよう。)
    别人biéren(他の人。はたのもの。‘人家’の意味に似ているが,以下の点が異なる。
          ①具体的な人は指さない。②)‘人家’は話し手自身を指すこともあるが,
          そういう用法はない。③‘人家’は‘人家小李’(あの李君)という言い方が
          できるが,そういう用法はない。
     例 不要在背后说别人的坏话。Bú yào zài bèihòu shuō biéren de huàihuà.
       Don’t speak ill of others behind them.
       (陰で他人の悪口を言ってはいけない。)
    某mǒu 某人mǒurén (特定の人を指すが,実名を言う必要のないときなどに用いる。あ
       る人。a certain  peson.また,実名のわからない時などにも用いるsmebody.
     例 我张某人不敢不同意。Wǒ Zāng mǒurén bù gǎn bù tóngyì.
       I dare not go against it.
       (私チョウなにがし,同意しないわけにはまいりません。)
       她曾经写过有关某位名人的书。Tā céngīng xiěguo yǒuguān mǒu wèi míngrén de shū。
       She once wrote a book on somebody famous.
       (彼女はかつてある有名人に関する本を書いたことがあります。)


 中国語の人称代名詞,ほぼ以上の語です。英語は主格•所有格•目的格があり(中国語は主格と目的格は同形),可算名詞と不可算名詞による単数・複数の区別とか,所有代名詞,関係代名詞,再帰代名詞の用法とかがあります。日本語はというと,話し相手によって人称を代えないと礼を欠くということがあり,人称代名詞の数がかなりなものになります。そういうことのない中国語の人称代詞は,問題は少ないといえます。
  ※ 日本語の1人称代名詞を挙げると,「わたくし・わたし・あたし・ぼく・おれ・自分・
   手前・小生・吾輩・拙者……」と,大変多い。また,日本人は子供のいる家庭内では夫を
   「お父さん」とか「パパ」といい,妻を「おかあさん」とか「ママ」と違和感なく呼ぶ。
   中国語の世界ではなぜかそのような現象はみられない。

 なお,中国語の人称代詞はでは主格と目的格は同形で,所有格は原則として人称代名詞に構造助詞の“~的de”をつけて示します。ただ,この≪人称代詞+的+名詞≫の形式はいつもそうだという訳ではありません。“的”を要しない≪人称代詞+名詞≫の場合もありますので,どういうときに“的”は不要かを知っておく必要はあります。簡単に言うと,緊密に結びついて熟語化している場合,人称代名詞+家族や人間関係・所属集団名の場合はいらないということです。

 要するに中国語の人称代詞の基本は,発音だけでいうなら,nǐ wǒ tāの3つ,それに2人称敬称のnínがくわわります。いずれも1音節語です。漢字で表記すると,“你・我・他/她/它/牠” ,それに2人称敬称の“您”の6つです。複数のときはmen(们)をつけます。日本語のように相手によって呼称を変えることはありません。
  ※ 2人称敬称の複数を“您们”と手紙などで書くこともあるが,口語ではいわない。どうし
   ても敬称で言いたいときは“您二位”“您三位”などと≪“您”+数詞+位≫を使う。
  ※ 代表的な人称代詞を続けて言うときはふつう“你・我・他”と言う。3人称の“他tā”は
   本来人間(男女)に限らず動物や無生物にも用いていた。やがて欧化語法の影響から,民国
   以来,女性の場合は“她”,人間以外の事物や動物を指して“它”を用いるようになった。
   さらに,動物を指して“牠”とも表記する。“它”は英語の“it”に相当するが,主語のとき
   は本来の名詞を用いるので,賓語や定語の中だけに現れる。


 ところで,日本語の人称代名詞は使わなくても通じるときはできるだけ使わないですませる傾向があります。中国語の人称代詞も使わなくても通じるときは省かれます。しかし,日本語とおなじで,できるだけ使わないようにと代名詞を避けているのではありません。言わなくてもすむのを言うのは,面倒だからです。ですから,ときに省くと表現がぞんざいになり,使うと表現が丁寧になる場合があります。
  ※ “去!”とだけいえば「(あっち)行け」と邪険に命令したいい方。“你去!”なら,場
   面にもよるが,男なら「君行けよ」,女性なら「あなた行きなさいよ」となり,一段やわら
   かい表現といえる。主語の人称代詞の有無には,このような表現効果もある。
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by damao36 | 2012-04-28 07:45 | Comments(0)