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161―受動文といいたいのですが、やっぱり受身文でしょうか

 英語は常に主語を中心にして,その主語が述語である動詞の表す動作にどう関わるかを意識する文表現です。この「主語が述語である動詞の表す動作にどう関わるか」を言語学ではvoice(態/相)といい,主語が動作の主体であれば能動態,客体であれば受動態と呼んでいます。

 「ある人Aある事・人Bに対してある行為Cをした」とします。この「AがBにCした」という事実をある事・人Bの立場から見ると,「BはAにCされた」という表現になります。英語はこのような行為の裏と表の関係を常に意識して表現します。しかし,主語はいわないですむならいわない日本語は,主語と述語とのこのような関係にはきわめてルーズです。その点,中国語も日本語に似ています。

 例えば英語で「This letter was written by me.」という文があります。これを日本語に訳すと「この手紙は私によって書かれたものです。」と受動態ではほとんど訳しません。「この手紙は私が書きました。」と,「私が書く」という能動態でいう方が自然です。中国語もまた同じで,「这封信是我的。」と,「我」という能動態でいうはずです。


 それでは中国語の受動文がどのような特徴をもつのか,その構造をまとめ,具体例をあげて説明します。

【受動文の構造】
 受ける者)           (動作・行為主)              (動作・行為)
 主語 + 状語(介詞+名詞) +  動詞  +  他の成分
                    bèi
                    jiào
                    ràng
                    gěi
        
        特徴 ①介詞連語の状語で述部を限定する。
            ②介詞に導かれる名詞は動作主,行為主である。
            ③動詞は他動詞である。
            ④多くは完了したこと,結果のでたことなので,ある成分には“了”または補語成分が来る。
    
        例  钱包 被 小偷 偷 走 了。          
               (主   語)   (状    語)   (述      語)

             I had my wallet stolen.//My wallet was stolen by thief.          

 【例文】
1 我被虫了。
   I got bitten by some hugs.
2 手指被夹在了门中间。
   My finger got caught in the door.
3 我表哥刚被提升为上校。
   My cousin has just been promoted to the rank of major.
4 他最近被任命为那个革命会的总裁。
   He was appointed president of the committee recently.
    a 受動文の代表的なマーカー語となるのは介詞の「被」です。したがって,受動文のことを“被”構文
      呼ばれています。1~4は「被」使用の例文です。
    b 介詞「被」はその漢字の意味からして1,2のような“不愉快な気分になる事柄”のときに用いられて
      いました。しかし,近年は西洋語の影響を受けて,3,4のようにそうでないときにも用いられてきまし
      た。

5 叫你猜对了。
   You’ve guessed right.
6 我的裤子叫我儿子给弄脏了。
   My pants was soiled by my son.
7 真是让人失望
   That’s rather disappointing.
8 她的脸让蜜蜂了。
    She was stung on the cheek by a bee.
9 报纸和期刊让我了解时事。
   Newspapers and periodicals keep me updated on current affairs.
10 报纸给风吹走了。
   The newspaper was blown away by the wind.
    c  「被」と「叫,让,给」の4つの介詞が受動文で使われる代表的なマーカー語です。
    d  使役文のマーカー「叫,让,请,使」は動詞で,この部分は動賓連語でしたが,受動文の「被,让,
       叫,给」は特徴①にあるように「介詞連語の状語で述部を限定する」語です。なぜでしょうか。した 
      がって,使役文は兼語のSVOVO文でしたが,受動文はSV文です。
    e  「被」は主として書き言葉に用いられ,話し言葉では「叫,让」が主です。
    f  「被」に導かれる行為主は省略できますが,「叫,让」は省略できません。したがって,「被」は動詞
      だという説(?),副詞だという説(岩波)もあります。
         例 我被他了。→我被了。
    g  また,「被」には「被他夸奖了」、「他被选为国会议员了」のように「ほめられる」,「選ばれる」という
      用法がありますが,「叫,让,给」にはありません。
    h  「叫,让」は使役動詞でもあります。したがって,受動か使役かわからない 場合があります。
         例 我叫他了。 (使役)「私は彼を行かせた。」
                     (受動)「私は彼に行かされた。」
    i  「被,让,叫,给」はe・fの違いを除けば,入れ替えることができます。受動文とは行為を受ける事物
     と行為をする人という2つの名詞の関係ですから,それを結ぶ動詞は他動詞です。自動詞は受動文
     にはなりません。
         例 ×被他气了。→○被他批评了。
            ○ 他生了我的气了。
    j  「被,让,叫,给」の受動文はほとんどが完了した事柄,結果の出た事柄ですから,その述部には
     完了の「了」か,結果補語です。7は「了」の省略でしょう。


 ところで,能動態か受動態を意識する英語が受動文が多いかというと,そうでもありません。日本語も結構受身の表現はたくさんあります。

 日本語は英語のように「~する」か「~される」かという行為の裏表の関係で,能動か受動かをとらえるそういうとらえ方では,受動表現を避ける傾向にあります。むしろ行為によって引き起こされた事柄の状態を客観的なものいいとして受動文を“受身”という和語でいい表わしています。私は使役文という音読式のいい方に会わせて,同じ音読式の受動文を使ってきているのですが。ひょっとして,日本語の場合は受動文といういい方ではなく,やっぱり“ウケミ”文なのかも知れません。

 中国語の場合は,能動か受動かという行動の裏表の関係では日本語に似ていささかルーズですが,日本語のように「行為によって引き起こされた事柄の状態」を受動文で表現するという傾向はありませんので,受動文は日本語や英語よりもいちばん少ないということになります。

具体例で見てみることにします。

 1 彼は女房に逃げらた。
   她老婆跑走了。
 2 表紙に美しい絵が描かている。
   封面上画着美丽的画。
 3 この地方では赤ワインが作らている。
   这地方生产红葡萄酒。
 4 知らない人から話しかけられた。
    不认识的认向我了话
 5 近くでタバコを吸われると気分が悪くなる。
   在靠近抽烟的烟味儿就不舒服


 例えば特定の個人が主体的にかかわることでない出来事とか,客観的な状態の存在していることを述べるときにとかに,日本語は動詞に「れる」、「られる」という受身の助動詞を付けた受身表現にすることがしばしばです。しかし,「被,让,叫,给」しか受動のマーカーのない中国語はそうではありません。


 ところで,中国語の文法書では受動のマーカーのない文で,意味上の受身無標識の受身かくれ受身などと呼ばれる受身文があるということが書かれています。上記のような例を指すのでしょうか。

 また,このような意味上の受身文には「写完」、「做好」、「解决」、「召开」、「搬来」、「寄来」、「打扫干净」などという結果補語を伴う動詞連語が述部によく表れます。やっぱり受身,いや受動文だからでしょうか。
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by damao36 | 2009-11-16 21:56 | 中国語文法 | Comments(0)

160―賓語は目的語とどう違うのか

 日本語の基本語順はSV型で、英語と中国語はSVO型です。

 このSVO型のS(主語)「だれが/何が」は、日本語の場合は必ずしもそうではないことがありますが、中国語の場合は必ず聞き手がすでに知っている、既知のコトガラ、旧知の情報のはずです。その後につづく述語と賓語、その内容が聞き手に伝えたい未知の情報、新しい事柄になるはずです。英語もきっとそうではないでしょうか。

 ところで、同じSVO型である英語の目的語(object)と中国語の賓語はまったく同じでしょうか。どこか違うところがあるのでしょうか。今回はその違いを検討してみました。


 
 その違いの例として「私は日本人です」という文をまずは挙げることができます。

   (日本語) 私は 日本人です。
         (主語) (述 語)
   (英 語) I am a Japanese.
          S V   C
   (中国語) 我 是 日本人。 Wǒ shì Rìběnrén。
       (主語)(述語)(賓 語)

 日本語文は「名詞+助詞+名詞+助動詞」で、名詞述語文です。英語は「名詞+be動詞+冠詞+名詞」で、不完全動詞のbe動詞の後の「a Japanese」は「I=a Japanese」という主語を補う補語の関係です。したがって、この文は第2文型SVCの文です。

 中国語は「名詞+動詞“”+名詞」で、一見上記の英語のSVC文に同じだと思われますが、ふつうこの最後の名詞「日本人」は賓語だとみられています。したがって、この文は英語の第3文型SVO文になります。

 この見方については中国語文法学界でも、文中における各成分の意味を重視して補語とすべきだと主張する「意味派」と、動詞の後にくる名詞や名詞成分は一律に賓語(目的語)とすべきだという「形式派」とに分かれて論争があっつたそうですが、今は述語の後の名詞はすべて賓語とする「形式派」が主流になっています。

 その理由としてまず考えられることは、「」という動詞は中国語のbe動詞ともいわれていますが、英語の不完全動詞といわれているbe動詞ほどには不完全ではなく、例えば「はい」とか「その通りです」という意味での単独用法もあるということです。

 もう一つの理由は中国語には述語動詞や形容詞の後にさらにその叙述を補う成分が多くあり、それを補語と名づけているからです。「+名詞」の名詞を補語と名づけたら「動詞+補語」としているこの補語の名称を変えなくてはならなくなるからです。



 次に英語の別の補語の例を挙げて、考えてみます。

    I go to school. (学校に行きます。)
    He live in Shanghai. (彼は上海に住んでいます。)

 さて、この文の文型はなんでしょうか。答えはいずれも第1文型のSV文です。SVM文と書かれている辞書もあり、Mに相当する「to school」「in Shanghai」は帰着点と場所を示す副詞句なのだそうです。

 
 中国語はどうでしょうか。

    我 去 学校。
    他 住 在 上海。

 英語の「go」は自動詞ですが、中国語の「」は他動詞です。したがって、「学校」はりっぱな賓語です。この文はSVO文です。

 次の「住在」はちょっと厄介で二つ説があります。

 一説は「住在」をVVの動詞連語と考え、ここは「住んで・そこにいる」という意味を構成し、後ろの「」は前の動詞を補う補語であるという補語説です。「上海」は動詞の後ろの名詞だから、当然賓語です。するとこの文はSVCO文になります

 もう一つは、「“”+場所詞」の介詞連語説です。そう理解すると、介詞連語全体で賓語となるのか、介詞連語の「在上海」が述語「」の意味を補う補語になるのか、私の迷うところです。でもいまは前説が有力なので、SVCO文だと考えることにします。中国語のVCは広い意味では述部ですから、つづめるとここはやはりSVO文です。



 ところで、日本語で「誰かが何かに何かをVします」という文例と「誰かがなにかを何かにVします」という文例があるとします。日本語では「何かに何かを」と「何かを何かに」は語順が多少入れ替わっただけで、いずれも文法成分は連用修飾語で、SV文型です。

 ところが英語ではどうなるのでしょうか。

   A She wrote me a long letter. (彼女は私に長い手紙をくれました。)
   B They elected him chairman.  (彼らは彼を議長に選びました。)

 Aは第4文型の「S+V+O+O」で、「~に」、「~を」の部分はいずれも目的語です。Bはどうかというと、これは第5文型の「S+V+O+C」になり、「~を」は目的語ですが、「~に」の部分は目的語ではなく、目的語の補語、O=Cの関係になります。

 それなら中国語はどうでしょうか。

   A 她给我一封很长的信。
   B 他们推选他会议主持人。

 Aは述語動詞「」の間接目的語と直接目的語です。

 Bの述語「推选」の二つの動詞は「推して選ぶ」という並列連語で、やはりこれも間接目的語と直接目的語のSVOO文です。

 英語は「彼を選んだ」、「選んだというけれども一体全体何に選んだかというと、それはchairmanにだ」という発想です。つまり、目的語の「him」の足りない状況をあとから補っているので、この「chairman」は補語だと考えるのです。

 それに対して中国語はどうかというと、「私たちは推薦して選んだ」、だれをかというと「を」、何にかというと「会议主持人に」、と足りない情報をつぎつぎにただ並べていく、そういう感じです。

 

 最後にもう1例挙げておきます。

 おなじみの「there is」構文です。中国語では存現文です。

   A  桌子上有一本书。  Zhuōzi shàng yǒu yì běn shū。
      There is a book on the table. (テーブルの上に本があります。)
  
   B  上午下了一阵大雨。  Shàngwǔ xià le yí zhèn dà yǔ。
      It rained heavily in the morning. (午前中に大雨が降った。)
  
 英語のA文の主語はふつう「a book」ととっています。Bの主語は「It」という形式主語です。

 中国語はどうなのでしょうか。あまたの辞書や文法書の中でどうもこの点についてはっきりふれているものを私は見かけないのです。日本語から主語を考えると、Aの主語は「一本书」、Bの主語は「一阵大雨」ということになるのですが、一体それでいいのでしょうか。

 相原茂氏らの『Why?』の目的語の説明のところに「(文中の名詞は)通常、意味上のシテ、ウケテにかかわらず、動詞の前にあれば主語、後ろにあれば目的語です。」(p157)と書かれているので、「桌子上」という場所詞、「上午」という時間詞がここでは主語と取り、「一本书」と「一阵大雨」は賓語とするのが中国語の文法なのではないでしょうか。

 考えてみると、「桌子上」と「上午」は話し手も聞き手も共有する事柄で、「一本书」と「一阵大雨」が伝えたい新しい情報ですよね。


 以上、英語では述語動詞の後の名詞が必ずしも目的語とは限らず、補語となる例が多いのですが、中国語の場合は全部賓語とみなしてしまうということです。したがって、この賓語は目的語という語感よりも幅が広く、補足語といった方がいいいのかなあと思ったりしています。
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by damao36 | 2009-11-02 22:53 | 中国語 | Comments(0)