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212 主語――日・英・中語の比較

 中国語の基本構造を6つの文成分だけで示すと以下の順序で並びます。主語を含む主部は日・英語と同じで,文の先頭です。
    (主    部)        (述                部)
   〈定語〉+ 主語  + 〈状語〉+ 述語+補語 + 〈定語〉+ 賓語
        ※ 文の骨格は主語と述語+補語,賓語の4成分。補語は述部の一部とみなすこともでき,そう
          すると3成分になる。
        ※ 定語と状語は修飾成分。

 この主語を構成する品詞は,1語としては名詞か代詞で,まれに動詞や形容詞,数量詞も主語になることがあります。2語以上の連語の主部は<定語+(“的”)+主語>の形式の語句です。このつなぎの構造助詞“的”のないものもよくありますが,この“的”が定語を見つけるマーカーです。また,主部がSVOなど主述連語の場合もあります。(主部の成分構成は賓語にも該当します。)
1 是公司职员。Tā shì gōngsī zhīuán.
  He is an office worker.(彼は会社員です。)
2 写完报告的人可以回去了。Xiěwán bàogào de rén kěyǐ huíqù le。
  Please who have finished writing their report may go home.(レポートを書き終えた人は帰ってもよろしい。)
3 考试不及格的人必须再考一次。Kǎoshì bù jígé de rén bìxū zài kǎo yícì.
  Anyone who fails the exam must take it again.(試験に不合格の人はもう一度受けなさい。)
4 因事故而停驶的电车终于开动了。Yīn shìgù ér tīngshǐ de diànchē zhōngyú kāidòng le.
  The train that stopped due to an accident finally began to move.(事故で停車していた電車
  がやっと動き出した。)
5 身体好很重要。Shēntǐ hǎo hěn zhòngyào.
  It is important to be in good health.(体が丈夫なことは大事なことだ。)
6 抽烟对身体不好。Chōyān duì shēntǐ bù hǎo.
  Smoking cigarettes is not good for your health. (たばこは体に悪い。)
    ※ 1は1語の主語。1語で主語になれる語は名詞と代詞が両“横綱”。会話では人称代詞が多い。
    ※ 2~4は<定語+的”+主語>。“的”が定語のマーカー。
    ※ 5は<S(名詞)+V(形容詞)>で,形容詞述語文の主部。6は<V(動詞)+O(名詞)>で動賓連
      語が主部。このように主部にはいろんな語句が来る。

 ところで,これまで日・英・中語ともに主語は文頭と述べましたが,これは文の基本構造のことで,実際に出てくる文は主語が文頭にない,あるいは主語そのものがない文でいっぱいです。そうした文をⅠ 主語の省略・Ⅱ 主語の後退 とにわけて説明しておきます。


Ⅰ 主語の省略
 英語も命令文では主語は話相手に決まっていますから,省略されます。会話の中ではしばしば主語のない文も使われます。でも,フォーマルな平叙文は必ず主語が必要です。ダミー主語と呼ばれる“it”というのもあります。
    ※ 英語の主語は単数・複数とか,一人称・ニ人称・三人称とか(いわゆる「3単現のS」)で,述語の動
      詞に影響を与える権限があ。しかし,日・中語にはそういう力はない。
    ※ 主語を英語では“subject”という。この「sub~」は地下鉄のことを「sub-way」というように,語源
      的には「下」「従」の意味。それが今は“subject”が決まらなくては動詞も決まらない絶対的権力を
      もつている。

 しかし,中国語は日本語と同じで,文脈から主語が推測される場合には主語が省かれることがしばしばです。主語が特定しにくい文もあります。英語とは違って主語がなくても文は成立します。特に会話では主語のない文,多くは人称代詞の省略ですが,そうした文があまた出現します。その例をあいさつ言葉から挙げておきます。
7 好久没见了。Hǒjiǔ bú jiàn le.
  We haven’t seen each other for a long time. / It’s been a long time since I saw you last.
  (お久しぶりです。)
8 初次见面。请多关照。Chūcì jiànmiàn. Qǐng duō guanzhào.
  How do you do?  I'm pleased to meet you. (はじめまして。どうぞよろしく。)
9 请多多指教。Qǐng duōduo zhǐjiào.
  Kingly give us your advice. (ご指導よろしくお願いします。)      yě hěn gāoxìng.
10 认识你我很高兴。――认识你我也很高兴。 Rènshi nǐ wǒ hěn gāoxìng.-- Rènshi nǐ wǒ
   Nice to meet you!―― Nice to meet you, too! (お知り合いになれてよかったです。―私もです。)
    ※ 8は日本人が頻繁に用いる「はじめまして。どうぞよろしく」の訳。日本人向けのあいさつ言葉。中国
      人同士,あるいは他の外国人には用いない。(§体感随筆30「『よろしく』が口癖の日本人」参照)

 文脈から主語があきらかな場合は,中国語は遠慮なく主語を省略することになります。主語となる品詞の“横綱”である人称代名詞,特に“你•我”はよく省略されます。ただし,日本語とは省略するときの意識に違いがあります。日本語の場合は話相手によってどのような人称代名詞を用いたらいいかを忖度する必要があります。なんとなく気軽に発音できない感があります。しかし,中国語は単数の人称代名詞は“普通话”(共通語)では“你・我・他”と敬称の“您”だけです。しかもすべて単音節です。日本語のように人称使用にためらいをで感じることもありません。省いても通じる会話で,わざわざ人称代名詞をつけて話すと,むしろ相手に対する丁寧な,ときには慇懃なもの言いにさえなります。
    ※ 実際の会話で,「あなたは」とか「君は」とかを使うときに私はなんとなく躊躇する。英語の“she”や
      中国語の“她”を「彼女」と言い換えることに,今もいささか違和感がある。
    ※ 昭和10年代の文法学者三上章氏は日本語無主語説を唱えた。その考えに共鳴して,カナダで日
      本語教師をしている金谷武洋氏は『日本語に主語はいらない』『英語に主語はなかった』(講談社選
      書)などの著書を表している。
    ※ 日本語の主語は不可欠の要素ではない。語順も融通無碍である。敬語表現を除いて動詞に人称
      変化を起こさせる力もない。「に」「の」「で」などの格助詞のつく語が主語のこともあり,「主語は主格
      で表れる」とはとても言えない。日本語には主語というのはなく,あるのは格助詞「を」「に」「と」「で」
      などと同レベルの主格補語「が」(ガ格)にすぎない。金谷氏はそう主張している。
    ※ 日本語を外国語として教えるための日本語文法書『初級を教える人のための日本語文法ハンドブ
      ック』(フリーエーネットワーク 2000年)を見ると,これまでの学校文法とは違って,主語という用語
      は見当らない。金谷氏の説とは関係なさそうだが,この書は主格という語を用いている。


Ⅱ 主語の後退
 テニヲハ貼付語である日本語は「~が/は」という助詞が付いていると,その文節がどの位置にあっても主語を表します。しかし,配置の言葉であり,テニヲハのような主格を示すマーカーを持たない英・中語は,主語はあくまでも述語の前に位置します。ときに主語成分が文頭にない場合がありますが,そのとき先頭に来ているのは修飾成分の状語(M)か賓語(O)です。基本構造の<S+V>という結びつきは不変です。

 なぜ状語や賓語が先頭に移動してきたのか,その理由は一つはその部分の強調のためで,もう一つは発音上のバランスのためです。以下にA 状語が文頭に来た例とB賓語が文頭に来た例とに分けて,その例を挙げて説明します。

A 状語が文頭に来た例
11 明天去。Míngtiān wǒ qù.
   I want to go tomorrow. (明日は行きます。)
12 已经决定中村下月要搬去上海了。Yǐjīng juédìng Zhōngcūn xiàyuè yào bānqù Shànghǎi le.
   It’s turned out that Mr.Nakamura will move to Shanghai next month.
   (中村さんは来月上海に引っ越すことがすでに決まっている。)                    zǎofàn.
13 在中国许多人在上班的路上吃早饭。Zài Zhōngguó xǔduō rén zài shàngban de lùshang chī
   Meny people eat breakfast on thire way to work.
   (中国では多くの人が出勤途中で朝ご飯を食べています。)
    ※ 11は“我明天去”の状語“明天”を強調して文頭に持ってきた例。この文はさらに主語“我”を省い
      て“明天去”ということも可。この場合は時間詞の“明天”が主語になる。
    ※ 12は“决定”と“搬去”が動詞のいわゆる連動文。主語“中村”が定位置だと述語動詞ばかりが重な
      るので,バランス上主語を中間に持ってきたと考えられる。
    ※ 13は“在中国”“在上班的路上”が状語。この文も主語を定位置にすると,こんどは状語が長くなる
      ので,理解しやすいように主語“许多人”を中間に持ってきたと考えられる。

B 賓語が文頭に来た例
14 这东西还要呢。Zhè dōngxi tā hái yào ne..
   She still wants to keep this thing.(これは彼女は要るそうですよ。)
15 明天的会不要迟到。Míngtiān de huì nǐ bú yào chídào.
   Try not to be late for tomorrow’s meeting.(明日の会には遅刻しないでください。)
16 冷和热都喜欢。Lěng hé rè wǒ dōu xǐhuán.
   I like it both cold and hot. (冷たいのも熱いのも僕は好きだ。)
17 那件上衣,觉得你穿起来很合适。Nà jian shàngyī, wǒ juéde nǐ chuāqǐlái hěn héshì.
   I think that jachet would go well on you.(あの上着はよく似合っています。)
    ※ 14・15は“她还要这东西呢”“你不要迟到明天的会”の賓語“这东西”“明天的会”が文頭に来て
      それが強調された文。なお,主語の“她”“你”を省いて“这东西还要” “明天的会不要迟到”とい      うことも可。その場合は“这东西”“明天的会”を主語にとする。
    ※ 16もSVOだと“我都喜欢冷和热”で,“冷和热”が文頭に来た例。“热”と“冷”は形容詞の名詞
      用法。
    ※ 17はいわゆる「心中文」。この文は“我/觉得”(私は/感じている)が文の外枠。内枠の何を感じて
      いるのかという中身は,“那件衣服你穿起来很合适”。これ全体が“我/觉得”の賓語になる。また
      この賓語全文をSVOに直すと,“你穿起来/那件衣服/很合适”だ。するとこの文は賓語の“那件衣
      服”は“很合适”の主語でもある兼語文だ。この例のように兼語の部分“那件衣服”が比較的長いと
      文頭に持ってくるのがふつう。これは内枠の文頭“那件衣服”をさらに外枠にまで持ってきた例。(こ
      の文の直訳は「あなたがその上着を着てみる,そうするとその上着はあなたに似合っている」である。)

 状語が文頭に来た例には12・13のように発音上のバランスからというものがありました。この場合の話者は意味上の変化を期待して表現したのではなく,あくまでも発音上の問題からの言い回しのはずです。もう一つの部分の強調とはどういうことでしょうか。
 
 例えば11の“明天我去”は基本構造だと“我明天去”です。状語の“明天”を前に出すことで,基本的な意味に違いはありませんが,話者の重点の置き方,ニュアンスに微妙な違いがあり,文脈によってはこの文を「(今日はダメだが)明日なら行く」と訳すことになります。
    ※ この例文の“明天”は時間詞。中国語は,日本語もそうであるが,時間をなによりも優先させる傾向
      がある。単にそういう意識で発せられたとも解釈できる。

 14の“这东西她还要呢”も“她还要这东西呢”と比べると,話者の意識は“这东西”にありますから,「(他の物はいらないが)これはまだ要る」とか「(どうみてもガラクタなのに)彼女はまだ要るそうだ」とかの意味が表出されてくるということです。


 ところで,このように文頭に引き出された状語や賓語は文成分としては何になるかという問題があります。

 上記11~17の文例を主語を明確にして日本語直訳で考えると,状語例の11は「明日は私は」,賓語例の14~17は「これは彼女は」「明日の会には(あなたは)」「冷たいのも熱いのも(私は)」「あの上着は,私は」となり,14・15・17は主語のマーカーとみられている「は」が二つも並んでしまいました。どうやら日本語文法でもこの「は」の説明はなかなかやっかいです。
    ※ 日本語の問題としてしばしば「は」と「が」はどう違うのかということが問題となる。井上やすしの『日
      本語教室』(新潮新書)には,この問題を取り上げ,国語学者大野晋氏の説として「大野説を一言で
      いえば,既知の旧情報には『は』を,未知の新情報を受ける場合は『が』を使うということです」
      (P174)と述べ,その傍証として「象は鼻が長い」という文も取り上げ,この「象」はみんなが知ってい
      る既知情報,「鼻が長い」は未知情報で,主語が二つあるわけではないとも述べている。井上氏の
      他の書にも「ガとㇵの戦い」という項目があり,そこには大野説への反論も紹介されている。
    ※ 日本語の「は」は判断や取立て,強調といった陳述に一定の影響を及ぼす係助詞で,「が」は主とし
      て主語を表わす格助詞。係助詞「は」は述語に係るが,ときに節や文をも越えて叙述にかかわること
      もある。であるから,金谷氏はこの「は」を「スーパー助詞」と名づけ,日本語テキストの例文冒頭の
      「は」のつく名詞節は,その後にまずは読点(、)を打たせる指導をしているという。読点を打つこと
      で,「~、それについては~」という感じがわかるから。
    ※ 金谷氏に限らず,日本語教師は「が」と「は」の違いをどう説明するかに苦慮しているのであろう。ネ
      ット「日本語教師のページ」にその違いをどう教えるかが書かれていた。例えば「私は学生です」とい
      うのは「私に関しては学生です」ということ。「私はその本を買いました」は<主題=主語+述語>の
      構造。話者は「私は」という言葉を意味的には主語と認識していても,文法的には主題として使って
      いる,そんなふうにに説明している。

 このように状語や賓語であるべき語句を本来の主語の前に持ってくるということは,話者がこれから語ろうとする文の題目(テーマ)やポイントを提示することで,これを主題と称すればいいいいという説があります。主題という語が文法用語として正式に認めれれていない点に何か不都合がありそうですが,私はいまはそれに従うことにします。
    ※ 「が」は接続助詞の用法もあるが,あとは<名詞+「が」>の場合だけで,これは主格を表す格助
      詞である。「は」も<名詞+「は」>の場合は主格を表すが,例えば「~には/へは/とは/では/から
      は/よりは」とその他の格助詞にも付き,目的格や連用格を示す。また,例えば「~までは/などは/
      だけは/ばかりは/くらいは/ほどは」と副助詞にも付き,ときに副詞にも付く。したがって,「は」は判
      断や取立て,強調といった陳述に一定の影響を及ぼす係助詞だと分類されている。要するに「は」
      は「が」が単に主格を示すのとは違って,特に何か一つのものを取り立てて提示するのが本来の用
      法であると考えられている。
    ※ 会話の中では“明天去”とか“这个还要”とか言うことはよくある。この場合の“明天”とか“这个”と
      かは主語では間違いで主題なのだと考えるとややこしくなるので,特に区別をする必要のある場合
      は除き,ふつうは主語として考える。必要があれば平叙文の主体や客体,あるいは状語のいずれ
      が強調されて先頭に立たされたのかを考えればいい。

 例文17は主題となる“那件上衣”が長いので,“逗号”が最初から付けらえています。他の文の冒頭“明天”“这东西”“明天的会”“冷和热”にも逗号”が付いているものと受け取って,中国語も「~に関しては/~については」ということだと理解するとわかりがいいでしょう。
by damao36 | 2012-06-14 07:22 | 中国語文法 | Comments(0)
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