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202 時態(テンス)と動態(アスペクト)

 私たちが何かをなすとき,まず「(何かを)~しようとする」という開始前があります。そして「~しはじめる」という開始点があります。「~している」という途中の進行・継続があります。やがて「~し終わる」という終了点,「~し終わった」という終了後があります。また,私たちの周囲で起こる事柄については,「(何かが)~あるだろう」という推測があります。「~がある」という現状認識があります。「~があった」という回想があります。

 日本語の「~しようとする」「~しはじめる」「~している」「~し終わる」「~し終わった」,あるいは「~あるだろう」「~がある」「~があった」という述部の表現,述部がいまどういう段階にあるかという表現を言語学ではアスペクト(位相/動態)と言います。そのアスペクトがいま現在の時点でのことなら,そのままです。過去においてのことなら,文末を「~た」にします。これからのことなら,つまり未来のことなら,文末を「~だろう」にします。叙述が現在のことか,過去のことか,未来のことか,それをテンス(時制/時態)といいます。

 英語の述語(動詞)ではこのテンスとアスペクトが常に動詞を中心に明示されています。述部のコアである動詞を中心に過去か,現在か,未来の表現かというテンスと述部がいまどういう段階にあるかというアスペクトが示されています。それを明示するために,英語の動詞には原形・現在形・過去形・過去分詞という4つの形があり,be動詞またはhave助動詞との組み合わせなどにより,過去形・過去完了形・過去進行形・過去完了進行形,現在形・現在完了形・現在進行形・現在完了進行形,未来形・未来完了形・未来進行形・未来完了進行形という12通りもの<テンス×アスペクト>を示す述部表現があります。
<テンス×アスペクト>の組み合わせ
 過    去 ・ 現    在 ・ 未    来  ×  <原形><完了形><進行態><完了進行形>
 was/were | am/are/is|          be |have been | be -ing |
      -ed | -                   -  |have -ed | have -ing| have been -ing
 would/should |    |will/shall
※ 上図の過去・現在・未来がテンス(時制/時態)で,<原形><完了形><進行態><完
  了進行形>がアスペクト(位相/動態)。
※ テンスを日本語では時制,アスペクトを位相・相・態などと言う。中国語ではテンスを
  “时态”(時態),アスペクトを“动态”(動態)と言う。ここでは,テンスとアス
  ペクトの訳語としては「時態」と「動態」を使うことにする。
※ テンスとアスペクトを日本語辞書(広辞苑)では以下のように説明している。
  【時制】〔言〕(tense) 動詞の表す動作の時間的位置(過去・現在・未来など)を示す文
      法範疇(ハンチユウ)。個々の動詞形を時称と呼び、体系を時制と呼んで区別する場合
      もある。
  【アスペクト】(aspect)①姿。局面。様相。②〔言〕相(ソウ)。動詞の意味する動作の様
         態・性質(例えば開始・終結・継続・反復)などの差異を示す文法形式。
         ロシア語の完了・不完了体はその典型。日本語でも、「…した」と「…
         していた」の対立が相の差と見られる。文法で,継続・反復・完了など,
         動詞が表す行為の様相。態。相。
※ 最近の研究では「英語には未来形はない」という説が有力。その理由は動詞に未来形と
  いうものがないこと,will, shallのある形式を未来形とすると,be going toやbe about
  toといった表現が説明しにくいことから。そこで従来の未来形を「will形」という人も
  いる。しかし,この書では便宜上通説に従って未来形という言葉を使う。


 最初の段落の説明から,日本語表現にもテンスやアスペクトとはまったく無縁ではないことがわかりますが,しかし,英語のように動詞自体に原形・現在形・過去形・過去分詞というものはなく,動詞だけではテンスを表すことはできないという違いがあります。また,「昨日は本を読んでから寝る」「彼は来年は上海に留学している」などというように,過去や未来の表現を現在形でいうこともできます。また,助動詞の「た」は過去を示すとも考えられていますが,アスペクトの完了でもあります。「だろう」は未来表現というよりは,「そういうことがあるだろう」という<断定+推量>の助動詞で,「~ているだろう」では現在,「~ただろう」では過去,「~だろう」では未来の推量ということになり,すべてのテンス表現に用いられます。ですかから,この語はテンスにかかわるというよりも,推量という述部アスペクトにかかわる語ということになります。

 つまり,「時」(テンス)の表現を英語は述部のコアである動詞が中心になって担っているのに対して,日本語は主語や連用修飾語で用いられる時間詞や時間副詞,あるいは述語を補助する助動詞や補助用言が担い,動詞は無関係ということになります。動詞が表す行為の様相であるアスペクトはどうかというと,日本語の場合は「た」(完了・過去)や「だろう」(断定「だ」+推量「う/よう」)といった助動詞,「つつ」「ながら」(継続・反復)といった助詞が担っています。


 中国語もその点は日本語に似ています。テンスは主語や状語(連用修飾語)で用いられる時間詞や時間副詞が,それに推量を表す語気助詞が主に担っています。述部の叙述が今どういう段階にあるか,つまり始まった当初か、途中か,終了かといったアスペクト(位相/動態)は,述部のコアである動詞に“着・了・过”といった動態助詞を付けたり,補語として“完”“成”などといった結果を示す動詞,または“来”“去”などといった方向動詞(趨向動詞)をつけたり,文末に“了”“吧”“呢”など語気助詞を付けたりして,表わします。
中国語の“時態”(テンス)にかかわる語群
(1)時間詞(名詞)(状語または主語としてテンスを表す)
  昨天 几年前         過去を表す
  今天  今年        過去を表す
  下周  将来        過去を表す
(2) 時の副詞(状語として時態を表す)
  已经 曾经 立即     経験・終結を表す

中国語の“動態”(アスペクト)にかかわる語群
(1)補語動詞<動詞+補語・動詞~>(補語が加わり動態を表す)
  V完 V成           完成を表す
  V起来/下去          始動を表す
  V过去/过来 経験・終結を表す
(2)副詞<副詞+動詞~>(時の副詞が状語として動態を表す)
  正在V~          進行を表す
  在V~            進行を表す
(3)動態助詞(アスペクト助詞)<動詞+動態助詞>(述語に動態を加える)
  V了+O           完成を表す
  V过             経験・終結を表す
  V着             持続を表す
(4)副詞+語気助詞<副詞/助動詞(快/将/就(要))+V+了>(述語に動態を加える)
  就V~了          将然を表す
  快V~了          将然を表す
  要V~了          将然を表す
  就要V~了         将然を表す
  快要V~了         将然を表す
  将要V~了         将然を表す
 ×要~ ×想~        (意欲を表す)
(5) 語気助詞<文末+語気助詞>
  V~了           変化・出現を表す
  V~吧            持続を表す
  V~呢           将然を表す


 ところで,『日本文法大辞典』(松村明編 明治書院)を見ると,日本語文法用語としては「動態」という語はありませんでしたが,「動作態」という語が出ていました。この語は「アスペクトと同義に用いられることが多い」と記されています。

 また,相原茂ら編『Why?』を見てみると,中国語のアスペクトとしてa進行相 b持続相 c完了相 d経験相 e開始相 f継続相 g将然相というのがあると書かれていました(P198)。「相」は「態」とイコールです。輿水・島田著『中国語わかる文法』には動態助詞(この書は動作態助詞という)の説明の中で,完成態,持続態,経験態という項目が見られます(P355~361)。

 これらの書を参考に,私は中国語の「動態」(アスペクト)を以下の5つに整理してみました。
中国語の時とかかわる動態5形
A 始動態 <V+起来•下去>(~しはじめる・しつづける)

B 持続態 状態の持続 <V+着>(~している/ある)
       動作の進行 <正•正在•在+V~呢>(~しつつある)
C 完成態 動作の完成(実現) <V+了~>(~した ~しおわる)
       状態の変化・出現 <~(文末)了>(~した ~しおわる)
D 経験態  <V+过>(~したことがある)
E 将然態 <就要•快要•快+V~吧>(~しようとしている/~するところだ/~しつつある)
 ※ <態>というのは<動作態>,<動詞動作の活動状態>の略称と考える。中国語で
   は“动态”。
 ※ <V+下去>(~していく)は持続態としてもいいが,<始動態>にまとめる。
 ※ <持続態>は<V+着>が状態の持続(~している/ある)で,<正•正在•在+V+呢
   >動作の進行(~しつつある)と考える。持続と進行の意味の違いは後で触れる。
   <持続>と<継続>は意味が多少異なるが,<持続>に統一する。
 ※ <完成態>の動作の完成の“了”は動態助詞の“了”。状態の変化・出現の“了”は
   語気助詞の“了”。これも<完成>と<変化・出現>がわかりにくい。後で説明する。
   なお,<完成>という用語はあまりなじみがなく,一般には<完了>の言われているが,
   中国語の動態助詞“了”は単に終結しただけでなく,実現の意味もあるので,『わかる』
   も用いているこの語を用いる。
 ※ <経験態>の“过”は英語の<過去形><過去完了形>に近い。中国語の<態>のほ
   とんどがテンスからは自由なので,ここも<過去>とは言わず,<経験>という。
 ※ <将然態>の<将然>という語は漢文訓読では「マサニ然ラントス」(~という状態
   である)と訓じる。「非常に近い未来に動作・行為が行われる状態にある」の意。<
   将然>という語は今はあまりなじみのない語なので,<推量・推測>がいいかとも思
   うが,いまは『Why?』に従う。
 ※ 英語のwill, shallは主体者の<意志>をも含めているが,<意志>は動態とは無縁。し
   たがって,「~したい」などの意の“想・要”は省く。なお,<将然態>に近い語に
   <将現態>というのもある。この語は「動作・作用が行われる寸前の状態に達する」
   (~しようとする。~しかける/しかかる)の意。これも<将然態>に含める。
 ※ なお,『日本文法大辞典』(松村明編 明治書院)を見ると,「動態」という語では
   なく,「動作態」という語で出ている。この辞書の説明をもとに日本語動作態を整理
   してみた。(これが日本語動作態のすべてであるかは疑わしいが。)
     Ⅰ 静止性動作態  a進行態(「~ている」など)
                  b既然態(「~ている」など)
                  c将然態(「~しようとしている」など)
                  d単純状態態(「~ている」など) など
     Ⅱ 活動性動作態  e始動態(「~はじめる」など)
                  f終結態(「~おわる」など)
                  g継続態(「~つづける」など)
                  h反復態(「~し~しする」など)
                  i将現態(「~ようとする」など)
                  j既現態(「~てしまう」など)  など
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by damao36 | 2011-11-19 22:17 | 中国語文法 | Comments(0)
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